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2005-10-23 Sun 15:44
―――晴天。
愛馬に跨り、向ったのは……… 何時も何かある度に足を運んだ、見慣れた小さい湖。 自然の空気を胸いっぱいに吸い込んで、きらきらと光る水面を見つめていた。 「シード………」 良く知った、そして何処か懐かしい響きのある声に名を呼ばれ、愛馬から降りるとゆるりと振り返る。 其の先には―――小さく笑んだ女性が佇んでいた。 「…スアル……」 長年、恋人として付き合ってきた彼女の名を呼んだのは此れで何度目か知らない。 しかし―――後何回彼女の名を呼べるだろうか。 「貴方から呼び出すなんて珍しい事もあるのね。少し吃驚しちゃった。」 農民らしい服装を纏ったスアルは、くす、と小さく笑んだ後凛々しい眼差しを紅へと向けた。 此れほど凛々しい眼差しは今までに見たことが無い、そして――― 愛しいと思ったことが無い。 「ハイランドが………堕ちるのですね。」 良く響く心地よい程の高い声に、シードはこくり、とただ頷いた。 この世に産まれてから愛しい、と思った最初の女性。 国を守れぬならば、せめて彼女だけでも守りたい、とシードは真直ぐ彼女を見据えた。 「俺は………ハイランドと命を共にする。だからせめて―――」 「嫌です。」 吃、とした言葉にシードは暫し呆然とした。 スアルはシードを子供を叱る母親のような目で見つめた。 「貴方は……本当に、国の事しか頭になかった―――でも、私はそんな貴方だからこそ付いて行こうと心に決めていたのです。 でもせめて―――最後だけは、貴方の恋人として……気高く散らせて下さい。」 真直ぐ見つめる瞳に、皇王となった少年を重ねながらシードは苦々しく笑みを零した。 「スアル、お前の性格は良く知っている……そして、良く解ってるつもりだ―― だからこそ…お前の言うとおりにはさせてやれない。それに、俺はこの国を――最後まで諦めない。だからお前も、其のつもりで……」 戦場で幾度か顔を合わせた同盟軍の主なら、皇都は襲われても、他の町まで襲うことはしないだろう。 敵ながらそんな甘い考えを持つ自分に自嘲の笑みを、シードは零した。 「なら、もし貴方が生きていたのなら……其の時は―――私の元へ帰ってきてくれますか…?」 「辛い約束だな……」 「ならば、この国の将軍として、散ってゆく貴方を…誇りに思っても良いですか……―?」 スアルの言葉に、顔を上げる。 「国を守れなかった……俺を……か…?」 「ええ、誇りに…思わせてください……」 スアルの頬を流れる涙を、そっと指で拭ってやる。 「あまり城を空ける訳には行かない…」 「解りました。さようなら、シード…」 愛馬に乗って、皇都に向ってゆく愛しい、気高い人に 行かないで、という言葉を掛けるのは余りにも酷だと スアルは、遣る瀬無く、余りにも悔しい気持ちを抱きながら、 ずっと、ずっと…其の背中を見守っていた。 |
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